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それは故意の末に【SLEEP NO MORE観劇感想-ネタバレ無】

 

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「是非観てほしいオフ・ブロードウェイがある」

 

そんな言葉とともに名前の挙がった作品が【SLEEP NO MORE】でした。

mckittrickhotel.com

私はその作品の名前を、2018年6月ごろにニューヨークへ遊びに行った際、同じセール品を漁っていた同郷のニューヨーカーに教えてもらいました。

単純に私の「NY」「シアター」のイメージといえば、

・キンキーブーツ

・アラジン

・ライオンキング

・レント

・シカゴ

・ウィキッド

とか、まさしくブロードウェイで観るものばかりで、SLEEP NO MOREは「かなりの人気」と彼女が言う割にはガイドブックでも見かけた覚えがありませんでした。(後からガイドブック見直したら、小さく掲載されてたけど)

そしてまぁ、ブロードウェイで観る舞台(ミュージカル)といえば、座って観るやつをイメージするじゃないですか。

ところがですよ。

彼女の口から出てくる【SLEEP NO MORE】に関する情報といえば、

 

・劇場は古いビルを改装してて、まんま一棟を使ってる

・各個室がすごい凝った内装で、舞台セットみてるだけで素敵

・その中を役者が走り回る

・役者はバラバラに走り回っている

・その役者たちを観客も追いかける

・バラバラに走り回ってる役者が出会ったところで、
 ワンシーンの上演が始まる

・無声演劇なので英語話者でなくても安心

・とにかく走り回る

・階段を上がったり下がったりする

・めっちゃ走る

・同行者と一緒に最後まで回ろうなんて思うな

・がんばって走れ

 

というものでした。

なんかスケールがでかくてバグってるし、もはや怖いし意味がわからん……思いつつも、とりあえず興味を惹かれてチケットを入手。いよいよその日を迎えました。

 

向かうは、ミートパッキングエリアあたりの、いわゆるブロードウェイからはだいぶ離れた倉庫街。

割とうらぶれて見えるストリートに、突如としてSLEEP NO MOREを観る?参加?するために集まってきた人たちがタムロしているのは、まぁまぁ異様な光景でした。

そうして私も友人とその中に混じり、ホテルの受付のような場所で手荷物を身ぐるみ預けて(手荷物等、何かを持っていくことは禁止、危険なのですべて預けるようにとのアナウンスでした)、いざ入場。

 

そこからはなんかもう、凄くて。

 

まず通されたのが、薄暗く退廃的な雰囲気ただよう小さなショーバーのような部屋。

そこでは生演奏生歌のジャズ?R&B?が流れており、バーカウンターではお酒も飲めます。そして恐らく役者さんだろうスタッフ?支配人?っぽい人が話しかけてきたり。要は、待合のような場所なんですが、既に舞台のプロローグの様相。

そこで上演時間まで待ち、受付で渡されたトランプの絵柄ごとのグループに分かれて順番に会場へ入っていきます。

幸いにも私は友人と同じグループだったので、一緒にいざ劇場へ。

 

イメージとしては、ディズニーシーのタワー・オブ・テラーみたいに、まずは10人ぐらいでエレベーターに乗って、一人のスタッフ(役者)が上演内容の諸注意などを、舞台上の演者さながらにアナウンスします。

そしてもう自分が何階に居るのかすら分からん状態でとあるフロアへ放り出され、唖然とする私の目の前を全力疾走していく男性。

 

「は???」

 

って声を上げずに心の中ではクソデカボイスで思いつつ、友人の手を鷲掴みにして走りましたね。

そりゃ走った。

今でもあの瞬発力はすごいなって思います。

 

だってめっちゃ疾走していくんですよ、多分役者なんですけど。

そして案の定、役者だったんですよ。

いや、待って、めっちゃはや……ってなりながら追いかけて(マジで追いかける)、辿り着いた広めの廊下で、ほんとに始まったわ、演劇。

 

迫真の演技を内装がめちゃくちゃ施された廊下で見せる役者二人。

それを円陣のように取り囲む我々。

 

な、なんだこれは……

 

ってなった。

ちなみに、無声演劇なので台詞は一つもないんですけど、コレの凄いところが、今何をやってるのかが120%理解できるんですよね。

そして観客と役者を分けるのは、受付で配られるペストマスクのような仮面。観客は仮面をつけており、役者は仮面なし。また、役者と同じく観客も声を出してはいけません。

 

そんな状態で、とりあえず息を整えながら()見守っていると、ワンシーンが終わったのか二人の役者は円陣を抜けてバラバラの方向へ。

 

えっいやまって、バラバラって……?????

 

と、ここで試される、我々の脳力。

というのも、このSLEEP NO MOREはシェイクスピアの「マクベス」とヒッチコックの「レベッカ」を下敷きにしたオリジナル脚本だそうで。(wiki見た

ということはですよ。

 

初見はマクベスを追うのが定石。

 

キラの顔しながら、マクベスっぽいおじさんを追いかけました。

ただ、この人、途中で気づいたんですがマクベスじゃなかったです。でもその後、マクベスらしき人と合流したことにより、無事にマクベスを追いかけることができました。

そう、めちゃくちゃ追いかけます。

何しろ、定石というからには、初見は全員マクベス追いかけるんですよ。(当たり前

そしてこのマクベス、めっちゃ足速い!!!!!!

ちょ、おい、待てよって何回思ったか知れない。めちゃくちゃ早い。すごい速さで観客を振り切って走り出す。

こいつまじで見せる気あんのかな?ってキレかけたぐらい走ります。

しかも平坦ならいいんですけど、非常階段みたいな狭い階段を上に下に走るので、上位10名ぐらいに入っとかないと、マクベスを追う集団の中でマクベスの行き先を見失うんですよね。

しかもちょっとした施設ならまた探せると思うんですけど、構造がすごい迷路だし、狭いし、暗いし、とにかく広い!!!

終わってから答え合わせみたいに「何を見た」「どこへ行った」ってやったんですけど、マジで「そんな部屋見てない」「そんなシーンあったの????」っていうのが山程ありました。

 

ストーリー自体は1時間構成。

その間、あちこちで俳優たちがワンシーンを繰り広げて、一応時系列で進み、最終的に全員同じ大ホールに集まってくるという仕組み。

なので、最後は観客も俳優も一つのホールへ集合し、ラストシーンを観ることになります。そして、このラストシーンが終われば、また俳優たちはあちこちに散らばり、1から上演。これを3回繰り返すわけです。

 

なのにですよ。

なのに、全然知らないシーンとか、見てない部屋が山程あったり、知人は「墓場に10回ぐらい辿り着いた」って言うのに、私はその墓場すら見てないんですよね。

なにそれ、こわ。

 

そうやってぐるぐると俳優を追いかけてはワンシーンを見て、追いかけてはを繰り返し、終わってから万歩計を見たら、3時間で1万8千歩いってました。こっっっっっわ!!!

 

そうやって足で稼いだ観劇感想はというと、まぁ正直謎はたくさん残ったものの、「また観たい!!!」っていう感じでした。

無声演劇自体も初めて観たんですけど、俳優の言わんとする事、やろうとしていることがめちゃくちゃ理解できるのは快感でした。

また、ストーリーも謎めいていて、あの人がああなんじゃない? この人はあの人と関係が?とか推理しながら観るのも面白かったです。

中にはまったく意味の分からんシーンもあって、コミュニティーとか漁ったら面白そうだなぁって思いました。

 

これは面白いわー!

 

ニューヨークへ行ったらぜひまた観たいです。

そして終わってからはめちゃくちゃ寝るので、観るなら最終日とかがいいですね。(私はそうして飛行機でめっちゃ寝た)

 

 

 

 

 

 

 

と、ここまでがSLEEP NO MOREの感想で、ここからはこの異色なシアターを観て思ったことについて。

 

SLEEP NO MOREの異色さって、それこそ挙げればキリがないと思います。ですが、まぁ主に特徴と言えるのはその演出手法というか、見せ方、または、観客との関わり方かなぁと思います。

 

このSLEEP NO MOREは、座って舞台を観るものではなく、前述のとおりに役者を追いかけて、その場その場で演じられるワンシーンをつなぎ合わせ、かつ、無声演劇なのでこちらがその役者の身体的に発される意図を汲み取るしかないんですよね。

追いかける人物の選び方によっては、相当、あいだの抜けまくった脚本にもなり得ます。

そして更に面白いのが、この作品を楽しむ人の中には、「部屋」を楽しむ人も居たりすること。

どういうことかというと、このSLEEP NO MOREの舞台になっている丸ごと一棟の建物には各階に無数の部屋が存在します。私が行っただけでも、執務室、広めの執務室、寝室、浴室、病院、ステージ?のようなところ、大ホール、廃墟、森、などなど。その他にも墓場や、意味不明な部屋があったりするそうです。その部屋それぞれがとても凝っていて、そこに仕掛けられた「脚本(ヒント、設定」を拾い上げていくそうなんですね。

これは所謂、多ステしてる人向けの楽しみ方かと思うんですが、それでも【シナリオを観客が拾い上げるしかない】というのは面白いなぁと思います。

 

極論、最後の大ホールで演じられるラストシーンしか観ない人もいるわけですよ。

 

そして、恐らくですがこのラストシーンしか観てない人と、初見でマクベスを追いかけまわった私と、多ステしてくまなく脚本を拾い上げている人とでは、見えてくるものは違うはずです。

 

そんなんあり?って思うわけです。

 

ただ、それで成り立っているからこそ、ロンドンからニューヨークへ、更にそこでも人気を博して繰り返し上演され続けているんですよね。

 

そして思うんですけど、このSLEEP NO MOREで作り手側が絶対に観せたい、外せないと思っているシーンって、極論、最初のこの世界の仕組み(待合とエレベーターの中で聞かされること)と、最後の大ホールでのラストシーンのみなのかなぁと。

それ以外のシーンももちろん観せたいはずですが(あたりまえ体操)、それらは完全に観客の思惑に委ねられているんですよね。

 

まるで未必の故意のような芸術だなぁと思いました。

 

ラストシーンへ至るまでの仕掛けは、作り手側が無数に散りばめていて、私たち観客側はその一つ一つを追いかけ、トリガーを引きながら衝撃的な大ホールでのラストシーンを目撃するわけです。

もしかすると、そのトリガーを引かずに別の「なにか」を追いかければ、そのラストを観ないで済むかも知れない。けれども、追いかけずにいられない、という、「もっと観たい」という欲望を上手く満たされた気がします。

または、知人はひねくれた人なので、「わざと」マクベスではない人を追いかけまわったそうです。そこにもまた「故意」があり、「このままでは違う話が展開するかも、それも致し方ない」という思惑の結果、まぁ私と同じラストを観るわけですが、そこへ至るまでの意志はどこまでも意図的なんですよね。

私たちは自分の手は一切くださず、ただ「選択する」という意思決定の果てに、あのラストを手に入れるわけです。

 

そこに至るまでの脚本も秀逸で、私は計3回、違う人を追いかけたんですが、どれも辻褄は合うんですよね……あーだから、そういうことになったのかぁ、という具合に。

 

 

と、ここまで考えてふと思ったんですが、私が通常観ている舞台も、実は同じだよなぁと思いました。

特に多ステしている時なんかは、最初は主要メンバーを軸にストーリーを観ているんですが、次には別の登場人物の思考を追体験したり、思惑を推し量ったりしながら、線や面で見ていたストーリーを多角的に楽しんだりします。

 

もちろん1度観ただけで理解できて、ストーリーを面白いと思える作品として完成されていることは、個人的に興行としてお金を取って提供される作品の大前提であるとは思うんですが、複数回観ることで「完成される」のではなく、「違う姿を現す」ような作品はもっと秀逸だなぁと思いました。

これだと誤解を招きそうなのでもう少し噛み砕くと、複数回入っての気付きは、あくまで私の場合で、その気付きを1回で得る人もいるでしょう。

要は、「其処に居る意味のあるキャラクター/舞台セット/仕掛け」が揃った作品を秀逸だなぁと思うわけです。すべてが「演出」なので、観客はいわゆる「目が足りない」という状況に陥り、最初はメインキャラクターを、次には別のキャラクターを、と追いかけることになるわけです。

つまり、すべてが意図的で、無駄の無い作品ってすげぇと思いました。

 

SLEEP NO MOREでいえば、「マクベス」を追いかけた時でもきちんとストーリーは理解でき、面白く感じ、2度目に別の人物を追いかけて更にその人物の意図を理解して面白く感じ、3度目も同じくラストまでを面白く駆け抜け、更に1度目よりも3度目には観た場面が増えて、ストーリーへの理解深度が増します。

また、このSLEEP NO MOREにも、いわゆる「アンサンブル」的な存在があって、その人達はラストシーンには登場しないのですが、そこにもきちんと意味があるんですよね。(出会えるかどうかはルート次第)

さらには、舞台セットにも仕掛け自体にも意味があって、ほんとスケールのデカさの割に抜けがなくて緻密さが凄い……。本当に無駄がない。

もはや狂気的な神経質さを感じるほどに、人造の芸術です。

とういか、普通にバラけて演技してるのに、どうやって役者らがあのだだっ広い空間で時間どおりに集合できるのか謎……それだけ緻密に計算され尽くしているんだろうなぁ、と思うと脱帽でした。

 

いやぁほんと凄いものを観た。

 

そしてSLEEP NO MOREほど、観客を信頼したシアターもないのでは、と思いました。

作り手と観客がこれ以上無いくらいに信頼しあった上に成り立つエンターテイメントです。

 

ロンドン、もしくはニューヨークへ行く予定の方は是非。間違いなくおすすめです。

(ちなみに全裸や血しぶきもあるのでレーティングあり)