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鼓動に思い知らされる-Free!感想

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ドキドキした。

 

まさしくその一言に尽きる作品が、アニメ『Free!』だった。

 

 本来であれば、東京オリンピックに沸いていただろう7月の四連休に、私はこの作品の一期と二期を初めて鑑賞した。

『競泳を通して描かれる、高校生らの青春』の物語。

無味無臭の紹介をするなら、『Free!』はそういう作品だ。間違いではないし、確認したわけではないが、そう紹介されていることも多いんじゃ無いかと思う。

実際、放映から7年が経った先日まで、私は『Free!』という作品を「それだけの」アニメだと思っていた。

 

思春期の機微を、競技を通じて描いているんだろうな。

涙あり、笑いありの感動ストーリーなんだろうな。

 

いや、間違いではない。

わかる、それはそう。それはほんと、そうなんだよ。

Free!』というアニメには間違いなく思春期の機微が綿密に描かれているし、競泳を通して展開するストーリーは観ている側の心をも熱くする。涙もあるし、笑いもあるし、それはもう過言の一つなく感動のストーリーに違いない。

 

けれどもどういうわけか、こうして平易なテキストに落とし込んだとき、『Free!』の魅力はグンと伝わりづらくなる。何故だ、あんなにも感動した思いが一ミリだって伝わりそうにない。
ここまでのテキストだって、実のところ10回以上は書き直している。

全消しに次ぐ全消しだ。

もう書くのはやめて、腹の中に渦巻く『Free!』への記憶を抱えて自家中毒でも起こしながら眠ってしまおうか。

そう不貞腐れるぐらいには書き直した。

 

例えば、各エピソードへの思いの丈をぶつければいいのだろうか。あるいは、こういう伏線が最終的にこうなったことに感銘を受けたと記せばいいのか。それとも、私の解釈を羅列して、それがいかに素晴らしいく思えたかという講釈に陶酔するか?

 

いずれも『Free!』には相応しくない。

 

なぜか?

Free!』というアニメは、「体験」だからかもしれない。

私はこのテキストを書くにあたって、自分の中にある言葉の限りを尽くして『Free!』にふさわしい言葉を探しあぐねた。

青春、勝者と敗者、憧れ、嫉妬、等身大、成長。

その他にもネタバレになりそうな単語が山程浮かんでは消えていって、結局、残ったのはたった一言の感想でしかなかった。

 

ドキドキした。

 

どの場面でも、どの瞬間にも、いろいろな感情や思考が自分の中で揺り動かされて、体中を駆け巡って、そうして浮かんで溶けていった。

その繰り返しが延々と続き、最後に残ったのは、「すごいものを観た」という唖然とした心地だ。同時に、指先にまで残る震えがドクドクと心臓に連動した脈拍を伝えていた。

 

恐らく、『Free!』というアニメを観て、まったく同じ感想を抱く人はいないんじゃないかと思う。それは、あまりに深く、繊細に、画面の隅々にまで至る思惑が、「私個人」の経験や思い出を刺激するからだ。

たとえば、競泳シーンなどは狂気的なほど、あらゆる場所に登場人物らの感情が滲む。

掻き分ける水の動きや跳ねる水しぶき、息遣い、表情、音のすべて。

羅列するとただの情報に過ぎないそれらが、1秒ごとに凄まじい勢いで何かを伝え、私たちはそれらに息を呑む。

まったく、「その場面」に「そのキャラクターが抱いている感情や思考」を表すにふさわしい単語が見当たらないのはそういうわけだ。そして、それらに想起される視聴者の感情や思考も計り知れない。

少なくとも私が抱いた感想と、元競泳選手だった友人の感想はその瞬間すら食い違った。けれども、いずれも「わかるわ〜」と互いに思えるものであるのも、このアニメの不思議なところで、まさしく特徴の一つなのだろう。

その深度を推し量ることは、とてもではないが不可能だ。

けれどもどこまで深くのめり込んだところで、しっかりと受け止め切ってくれるのだろうという懐の深さがあるのは間違いない。

 

まるで海のようだとも思う。 

 

そう喩えて思い浮かぶすべてが、おそらくは誰しも違うように、『Free!』というアニメは誰にとっても違う体験となる。

ただ、一つだけ同じだろうと思うことがある。

 

ドキドキする。

 

それはもう、とてつもなく。

びっくりするぐらい、ドキドキする。これもまた、いろんな意味で。

そしてきっと、その鼓動に思い知らされる。

 

「すごいアニメを観てしまった」

 

ぜひ、アニメ『Free!』を観てほしい。

過去の自分に出会ったら、私はそう言うだろう。

 

dアニメストア▼
https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/ci_pc?workId=11297 

Netflix
https://www.netflix.com/jp/title/80186018

2020.08.02現在配信中