カナダに滞在したのは夏の1ヶ月ちょっとだった。
あちこちの公園は短い夏を謳歌するためにと、日光浴をする人たちでごった返していた。
私が居たのはカルガリーで、8月だというのに、2週間ほどで夏が終わって雪がチラつき始めたのはまあまあ衝撃的。
滞在先としていたお宅のホストマザーは、せっせと暖炉の準備をしていたし、「暖炉に火をくべる」という経験をしたのも、庭先にトナカイ(だったと思う)がやってくるなんていうのも初めて遭遇することだった。
ただそんな衝撃の多かったカナダで、最も記憶に残っているのは移動遊園地でのこと。
ちょっとした小高い丘の広場に移動遊園地がきたからって、みんなで遊びに行った。
アトラクションも色々とあって、その中で人気のあるうちのひとつが観覧車だった。
ドラマなんかで見る、爆速で回転する小さな観覧車ってわかるだろうか。
日本のように箱体に乗り込み、ゆっくりと回転するやつじゃなくて、二人がけのベンチが20席ほど付いてるだけのやつ。
アレに乗って、足をブラブラとさせながら、舌の色が変わるほど真っ青な綿菓子を食べていた。
それで、あの観覧車って回るスピードも早いから、何回もグルグル回って頂上と地上を行ったり来たりするんだよね。
そうするうちにも綿菓子を食べ終えちゃって、いつ終わるんだろうね~、なんて一緒に乗った子と喋ってるうちに、ようやく景色にも目を向けた。
そしたら、すっっっっっっごい遠くまで地平線が続いてて、当たり前なんだけど、めちゃくちゃびっくりした。
カルガリーって、カナダの真ん中あたりにあるんだよね。
だから、どこまでも広い地平線が終わりもなく遠くまで見渡せて、その向こうに霞んでぼやけるロッキー山脈がスイーっと横たわっていた。
私は大阪生まれ大阪住みなので、こういう広い平野というのにまるで縁がない。
北海道に行ったときも驚いたけど、カルガリーのこのしょぼい高速観覧車から見た景色は更に圧倒的だった。
とにかく地平が広くて広くて、それからうっすらと丸かった。
え、地球ってマジで丸いじゃん。
そんなことをグラグラしそうな衝撃でもって感じたのをはっきりと覚えている。
当たり前のことを「わかる」っていう感覚は、これが初めてだったと思う。
地球が丸いっていうのは知ってるけど、私は宇宙飛行士でもないので、実際にその丸い地球っていうのは見たことがない。
だから、うっすらとした丸さを見たのも、このときが初めてだったし、その丸みがずーっと続いて球体になってるんだ、と明確に想像できたのもこの時が初めてのことだった。
まるいんだ…。地球。
そんな衝撃を受けたカナダの滞在から、もう何年も経った。
私は今でもたまに、ふと「丸さ」の上で生きてるんだ…、と思い出すことがある。
私も誰しも、生まれて死ぬまで丸みのうえに立っている。不思議。