初めて聞いた彼の曲は、深夜のドライブ中にFM802から流れてきた。
たしか2013年だったと思う。
その時はEDMなんて知らなかったし、クラブにも何度か行ったことがある程度だったから、曲名も彼の名前も知らなかった。
それでも、聞き流していた程度だったラジオが唐突に鮮明な音を脳みそにぶつけてきて、とんでもなく驚いたのをはっきりと覚えている。
私は慌ててコンビニに駐車して、ラジオ局の公式サイトにアクセスし、いま聞いている化け物みたいな音楽の曲名を知った。
それが、Aviciiの「Wake me up」だった。
歌詞もろくに聞き取れないのに、感情が揺さぶられて、気付いたら泣いていた。
それから彼のことを調べて、近日中にアルバムが出ることも知った。
もちろんそれも予約して、ほんと、何回繰り返し聞いたかもわからない。それこそ何百回では足りないんじゃないかってぐらい、彼の音を聞きまくった。
そうこうするうちに、今のところ人生で2番目にしんどい時期に差し掛かり、そのしんどさが続いた2〜3年ほどは、もはや彼の曲が心の拠り所になっていた。
特に、しんどさが麻痺している時なんかは、彼の曲に無理やり心を動かしてもらって、それからしっかり泣いていた。
彼の曲は、どこかメランコリックだ。
EDMらしいテンポで、よどみない選びぬかれた歌詞の連続で、そうして私をひとりきりにしてくれる。
クラブで聞いても、誰かと聞いても、彼の曲を聞いているときは、なぜか自分ひとりになってしまう。
けれど、沈み切ったり、打ちのめされたりすることはなくて、そんなでも大丈夫なんだと、寄り添うようにずうっと音楽が続く。
それから、やがて彼がいなくなってしまってからも。
彼の曲はそこかしこに残っていて、私は相変わらず彼の曲を聞いている。
泣きたい時、前へ向くために落ち込みたいとき、そうして励まされたくて、もうとっくに覚えてしまった歌詞を口ずさんでいる。
たまに、こうして私を救ってくれる曲を作った彼はもういないんだと、そんな現実がとんでもなく悲しくなることもあるけど、そんなときにもやっぱり私は彼の曲を聞く。
きっと、口ずさめなくなっても、私の葬式には彼の曲をかけて欲しい。